電通入社1年目で過労により自殺に追い込まれた高橋まつりさんのことを、ニュースで見聞きしている方は多いと思います。私も、その一人です。
彼女の尊い命と引き換えに、電通が働き方改善を行ったり、社会全体が働き方改革に動き出したのはあまりに悲しいこと。高橋まつりさんに限らず、他の沢山の過労死に追い込まれた方々が生きているうちに、会社、社会、個人すべてが動かなければいけなかったことなのに、と、一労働者として、とても残念に思います。
また、高橋まつりさんのケースや、その他ニュースや事象を見聞きすると、過労とパワハラ、セクハラはセットになっていることが多いと気付かされます。
高橋まつりさんも「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」「今の業務量で辛いのはキャパがなさすぎる」「髪がボサボサ、目が充血したまま出勤するな」「女子力がない」などの暴言を上司から投げつけられたらしい。これを、パワハラ、セクハラと言わずして何と言おう。
この悲しい事件と戦中の特攻隊を結びつけるのは飛躍しすぎかもしれませんが、この本を読んだ時に、私の中では結びついてしまいました。日本の組織における過労、パワハラは、70年以上前から全く変わっていないんじゃないかと。
鴻上尚史著「不死身の特攻兵」。
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新聞の書籍広告欄で見つけて思わず手に取らずにいられなかったこの本。特攻隊といったら、帰還の可能性はゼロだと思っていたのに、9回出撃して9回生還した特攻兵がいたなんて。
これまでの浅い知識では、特攻隊は行きの分の燃料しか積んでいないから帰れない、飛行機は爆弾が落とせないようになっていて突っ込むしかない、カミカゼが吹くという精神論に洗脳されていくしかなかった、だから生き残ったのは、整備不良で飛行機が飛ばなかったか、出撃する前に終戦を迎えた人たちだけだ、くらいしか理解していなかった特攻隊。
なのに、その人は、どうして帰れたんだろう。しかも9回も。技術的も、精神的にも、どうしてあの狂気の軍隊の中で、命令に背いて生還することが出来たんだろう。その後、どう生きたんだろう。
その解は、殆どが読むことで得られました。
そして、読み進む中で、戦争中という今とは全く違う時代の流れの中でのこととはいえ、日本の社会全体を見渡してみると、そして、自分自身がこれまでに経験したことと照らし合わせてみても、単に今に時代が移っただけで、日本社会は、本質的にはちっとも変っていないんじゃないかと思ったり、背筋が凍るような瞬間もあったり。
この本は、日露戦争の旅順包囲戦での決死隊「白襷隊」の生き残りを父に持つ実在した若い特攻兵、佐々木友次が、「生きる」という信念に徹底的にこだわって闘い生還した物語です。この信念と、運、その他の巡り合わせによって彼が生き残ったからこそ、明らかになったこと。
特攻に意味がなかったとは、私には絶対にいえません。生きたくても、それが叶わなかった8,000名を超えるという特攻作戦で命を落とした方々を思うと、そんなことは絶対にいえない。
その中にあって「生き延びた」佐々木友次のあり方を知ることで、今を生きる力にし、同じ過ちを繰り返さない社会をつくる努力をすること、個人の命を尊ぶ生き方をすることが、私たち今を生きる者の責務だと思う。
最後に、本書289ページの一節は強烈なメッセージ力があります。
2016年に南スーダンでの駆け付け警護への参加に対し自衛隊で行われたアンケートの選択肢「1熱望する 2命令とあらば行く 3行かない」とその回答について。「1944年と2016年が一気につながった瞬間でした」と著者は結んでいます。
これが何を意味するのか。
そして、私たちは、どう生きるのか。
知りたい方、問いたい方は、ぜひ本書を読んでください。
日本社会を生きる、沢山の方々に読んでもらいたい本です。
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